2013年08月 天職

2013年08月 天職

 先日NHKの「仕事の流儀」という番組で江戸時代から続く老舗うなぎ店の5代目金本兼二郎さんを取り上げていました。金本さんは現在85歳、今も店に立ってうなぎを焼いています。うなぎの世界では“裂き3年、串うち3年、焼き一生”といいます。70年続けてきた現在でも本人は80点だそうです。「常に同じ仕事をする」「仕事に“美しさ”があるか」など長い経験から得られた非常に深みのある言葉を多く語っていました。
 うなぎ店の仕事の内容は非常にシンプルですが、奥が深く「“仕事”を“作業”にしない」ことが非常に重要だそうです。「優秀な職人になるか否かの分かれ道」とも言っています。例えば、ウナギの背びれを5mmの幅で取りなさいと指示されたときに、単に5mm切るのでは「作業」となってしまう。5mmが小骨を取ることまで理解している場合には「仕事」になるということです。このようにこの人は典型的な職人気質のうなぎ職人といえます。若いころは老舗の伝統を守ることに必死で、それが非常に重荷だったようです。天然うなぎが激減したときには8年間ものあいだ営業時間減らし耐えていたそうです。しかし、養殖でも充分な味を提供できるめどをたて、養殖うなぎの提供もはじめました。また、30年も前から、うなぎにあうワインも一緒におすすめしたり、キャビアを添えたりと新しいことにチャレンジしています。今でも本人はフランスのワイナリーに出向いてうなぎに合うワインを探したりしています。このように様々な苦労を乗り越え新しいことに積極的にチャレンジし、「伝統は変化を積み重ねた先に生まれる」と言っています。
 彼の仕事に向かう職人としての姿勢は、新しいことを取り込みながら伝統を守る職人としての姿勢とともに共感します。
 NHKの番組HPを見たところ、放送されなかった流儀として「たまたま就いた仕事が天職、向き不向きは関係ない。どんな職業でも、縁あって就いた仕事。どんな仕事にも、面白さはあり、やりがいがある。それを見つけ、努力し続ければ、必ず道は開ける」という言葉が掲載されていました。この言葉こそが彼の原点だと思います。我々の周りには多くの選択肢があり、迷い、悩みながら生活しています。選択して後悔もあります。悔いてばかりでは前進しません。大体の場合真逆の選択というよりも甲乙つけがたい場合が多いはずです。一度決めたら、振り返らず選んだものに集中してきたからこそ、長く技術、人間性を磨き続けてこられたのだと思います。