8月21日にニューヨークヤンキースのイチロー外野手が日米通算4000本安打を達成しました。そのときの会見で印象に残ったのは「みなさんは僕のヒットのことだけを覚えていてくれますが、僕が記憶に残っているのはうまくいったことではなく、うまくいかなかったことです。成功の裏には成功した数を超える多くの失敗があります。誇れることがあるとすると、4000本のヒットという結果ではなく、8000回以上の悔しい思いをして、それと常に向き合ってきたことじゃないかと思います。バッティングや野球とは何かをもっと知るには、うまくいかなかった時間と自分がどう対峙するかによるので、これからもそれを続けていくことだと思います」と、成功した4000本よりも、失敗したことを強調していました。勝負の世界で生きるプロフェッショナルならではの失敗観です。
野村克也元野球監督も「失敗と書いて成長と読む」と言ったり、松浦清山の「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」という一説を引用したりしています。また、経営者でも失敗に関しては本田技研工業創業者の本田宗一郎が「成功は99%の失敗に支えられた1%だ」、ユニクロ創業者(ファーストリテイリング会長兼社長)の柳井正さんは「私の経営を星取表とすると1勝9敗。もしこれを成功と呼べるなら、失敗を恐れず挑戦してきたからだ。」と失敗の割合は異なりますが、失敗に向き合う大切さを語る人が多くいます。
失敗したときにいくつかのパターンがあります。一つ目は「失敗に気づかないケース」です。感度が低く自分自身は失敗しても、失敗自体を気づいていません。この場合無邪気に同じような失敗を繰り返してしまいます。二つ目は「失敗を認めないケース」です。失敗には多くの要因が絡み合っています。自分に起因する要因は無視し、自分以外の要因だけを原因として認識しています。過去に成功したことがある人や、特定の能力が多い人が陥りやすいケースです。自ら失敗と対峙しようとしないので、非常に厄介なケースです。これら二つのケースは失敗に対して自ら対応しないため、類似の失敗を繰り返してしまいます。三つ目は「失敗を避けるケース」です。失敗を認識して、自ら失敗を繰り返さないよう慎重に対応します。日本人には比較的多ような気がします。我々はある程度の確率で失敗に遭遇しますし、世の中は常に変化しています。失敗を避けてばかりいると、失敗のたびに、変化があるたびに自らの可能性を狭めてしまいます。最後のケースが「失敗に対峙し乗り越えるケース」です。失敗の要因で特に自分に起因する部分をとことん見つめ、自ら改め、進化することで失敗を乗り越えることができます。
先日2020年オリンピックの東京招致が決まりました。富士山の世界文化遺産の登録も決定しました。これらの働きかけはスムースに成功したわけではなく、2016年のオリンピック招致はリオに負け、富士山は2003年に世界自然遺産登録をあきらめた経緯があります。これらの関係者が失敗に対峙し、自ら変えられるところを積極的に対応した結果が結実したのだと思います。