理化学研究所の調査の結果、小保方さんの論文にねつ造があったとして不正と認定されました。私が一番最初にSTAP細胞の発表を耳にした時はすごい成果が出たと思いました。一日も早く社会に貢献できることを期待しました。その時には今回の様な結末を迎えることは微塵も思いませんでした。採択された科学論文誌、所属している組織、共同研究者の面々など、いずれをとってもこれ以上ない組み合わせですので、当然の認識だと思います。非常に若い研究者でしたので、違和感は持っていましたが、周囲のサポートや運に恵まれていたのだろうと前向きに受け止め、納得していました。しかし実態は想像の範囲外で実験の内容はともかく、論文として、特に画期的な研究という位置づけでは報告の通りずさんな内容でした。
科学の分野で画期的な発明・発見を世に出す時には古来から非常に慎重でした。天動説が主流であった時に地動説を考えまとめあげたコペルニクスに至っては、自身の死を待って発表するようにしたそうです。進化論を発表したダーウィンは、進化論を発案してから種の起源を発表するまで20年もかけて膨大なデータを集めたそうです。アインシュタインが発表した相対性理論は重力による光の曲がりの観測で実証明されるまで14年かかりました。昨年CERNで観測されたヒッグス粒子は提唱から50年近くの歳月を経ています。これらは天動説、キリスト教の創造論、古典物理学など、それまでの常識を覆しています。このような発見などは重大さに比例してより慎重に発表したり、証明すべきですし、困難を伴います。常識として身に付いた習慣、知識を変えることは非常に難しいのが現実です。
これらのことを象徴するものにブラックスワンのエピソードがあります。日本語で白鳥と書くように、スワン(白鳥)はすべて白いという常識がありました。英語では無駄な努力を言い表す時に「黒い白鳥を探すようなものだ」といわれるくらいブラックスワンはありえないものとして認識されていました。しかし実際にはオーストラリアに生息が確認され、今ではブラックスワンも存在を認められています。
我々は身の回りの確かさを認識するために、常識や報道などの権威に頼っています。しかしすべての事柄は無条件に正しい事は無く、一定の条件の下に正しいと言えます。政治経済など社会の変化や技術の進化が従来とは比べ物にならないくらいの速度で進展しています。これらの環境に関して常にに関心を持ち、我々に身についている嗜好、常識をそのまま受け入れ続けるのではなく、批判的な視点を持ち問いただす必要があります。感情的、一方的な批判でなく、論理的・合理的に批判してみることが重要です。
小保方さんの論文に関しても、発表までの間に周囲からの合理的な批判、議論が十分であれば今回の様な問題は起こらなかっただろうと残念な気持ちになります。