先日テレビの番組で、世界一貧乏な大統領が退任したとの報道がありました。ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカ大統領のことです。ホセ・ムヒカ大統領は2012年リオ会議(環境の未来を決める会議)でのスピーチが有名です。
――私たちが間違いなくこの無限の消費と発展を求める社会を作って来たのです。<中略>人類がこの消費社会にコントロールされているのです。私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短いし、すぐ目の前を過ぎてしまいます。命よりも高価なものは存在しません。
ハイパー消費が世界を壊しているのにも関わらず、高価な商品やライフスタイルのために人生を放り出しているのです。<中略>昔の賢明な方々、セネカやアイマラ民族までこんなことを言っています。「貧乏なひととは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」――
このように彼は経済が消費に大きく依存するハイパー消費社会に対して非常に危機感を持っています。我々はどうかと振り返ってみます。国連の2013年度統計では日本の一人あたりのGDPは3万9千ドルです。世界の平均が約1万ドルですので、平均から見ると4倍の付加価値を生み出していることになります。世界の人々の潜在能力はみな同じでも、教育や経済、政治など環境による差があります。グローバル化の進展によりこれらの差が無くなりつつあります。仮にグローバル化が進み世界中同じ条件になると、4分の1は極端にしても我々の付加価値が大きく下がると想像できます。現在厳しい経済環境ですが、世界と比べても、昔の日本と比べても非常に恵まれていると認識しなければなりません。ハイパー経済と無限の欲に注意が必要なのは我々かもしれません。
我々は日々周りと比べ、あれもこれも人並みなら手に入ると思いがちです。しかし、人並みを平均以上として、10個の要素(例えば身長、成績、運動能力など)すべてを人並み以上になる確率を計算すると(1/2)^10=1/1024となります。つまり10個の要素が皆人並み以上となるのは約1000人に1人の割合となります。人並みになるのも容易ではありません。そのように考えた場合、身長、容姿、学力、性格、体力、器用さ、健康、家族、センス、収入など色々要素はありますが、10のうち2が恵まれていて、2が人並み、残りの6は人並み以下くらいが妥当な線ではないのでしょうか?学力であれば偏差値の41~59、50m走(中学生)の7.3~8.7秒が中位60%に該当します。回りを気にして手当たり次第欲しがるのではなく、自分の置かれている状況を正しく認識することで不相応な欲に振り回されず、着実な発展が可能になるのだと思います。
ホセ・ムヒカ大統領のスピーチに戻ります。スピーチの結びで
――私の同志である労働者たちは、8時間労働を成立させるために戦いました。そして今では6時間労働を獲得した人もいます。しかしながら、6時間労働になった人たちは別の仕事もしており、結局は以前よりも長時間働いています。なぜか?バイク、車などのリボ払いやローンを支払わないといけないのです。毎月2倍働きローンを払っていたら、いつの間にか私のような老人になっているのです。私と同じく、幸福な人生が目の前を一瞬で過ぎてしまいます。<中略>発展は人類に幸福をもたらすものでなくてはなりません。愛情や人間関係、子どもを育てること、友達を持つこと、そして必要最低限のものを持つこと。これらをもたらすべきなのです。――
と言っています。彼は大統領になる前から労働者の権利獲得のために命がけで戦ってきました。目先の欲に振り回されるのではなく、自分にとって大切なこととは何か見直してみてはいかがでしょうか?