2015年08月 ラーニングゾーン

2015年08月 ラーニングゾーン

 総合電機メーカの東芝が不正な会計処理をおこない、歴代3名の社長が退任する事態となりました。7月20日に発表された第三者委員会の報告書では、「上司の意向に逆らうことができない企業風土」があったと指摘しています。日頃から「チャレンジ」と称して過大な目標を立て、非常に強いプレッシャーで経営をしていました。その結果、様々な部門で不正を行い、最終的には過大計上が1518億円に上ったそうです。有無を言わさずとにかく「利益を出せ。業績を上げろ」の繰り返しだったそうです。「3日で120億円の利益を積み増せ」という指示をしたという報道もありました。
 背景にはリーマンショックを受けての大赤字、東日本大震災での追い討ちにより、半導体、原子力の大きな二本柱が崩れ去り、粉飾に手を染めていったと言われています。しかし、他の総合電機メーカはバブルの崩壊から20年以上厳しい経営を強いられ、相次ぐ試練や、度重なるリストラを経て、今も存続しています。東芝にはバブル崩壊後に備えが足りなかった事が理由と考えています。危機はいつ襲ってくるか分かりません。バブル崩壊後できるだけ速やかに負債を清算し次なる危機に備える必要があったはずです。
 経営的余裕や上司からのプレッシャーなどで心理的余裕がなくなってしまい正しい判断ができず、善悪の判断ができず、ある意味合理的に不正に手を染めてしまったのだと思います。
 「チャレンジ」と言っても幅があります。少なくとも東芝での「チャレンジ」は無謀な目標に対する挑戦でした。そもそも「チャレンジ」することは成長に欠かせませんし、我々にとっては日常の大切な要素です。
 ミシガン大学経営大学院のノエルティッシー教授は鍛錬において分かりやすく説明しています。成長するためには継続的な鍛錬が必要です。鍛錬の課題を三つの同心円を書いて一番内側の円を「コンフォートゾーン」中間の円を「ラーニングゾーン」外側の円を「パニックゾーン」と定義しています。コンフォートゾーンは既に克服している課題になります。繰り返し行っても、時間をかけても決して進歩は望めません。自分では頑張っているのに報われない、趣味など長く続けているのにあまり上達しないケースなどがこれに該当します。パニックゾーンではあまりにも難しく、どうやって取り組んだら良いのかも分からない課題です。東芝の「チャレンジ」がこれに該当します。
 人はラーニングゾーンを強化することで最も効率よく成長します。ラーニングゾーンとは身につけようとしている技術や能力がもう少しで手の届くところにある課題を指しています。教授は自分の手でラーニングゾーンを明確にすることはたやすいことではなく、加えて継続的にラーニングゾーンにいるように自らを強いることはさらに困難であると言っています。ラーニングゾーンの課題には“何度でも繰り返すことができる”、“結果へのフィードバッグが継続的にある”、“精神的にはとてもつらい”、“あまりおもしろくない”という4つの特徴があるそうです。これらの観点をもちながら鍛錬し続けることが成長につながります。会社組織、個人を問わず同じだと思います。今の自分の実力を正しく理解し、適切な課題を設定し継続して鍛錬し続けることが成長へのもっとも近い道になります。当社も常に厳しい環境におかれております。ラーニングゾーンに課題を設定し続けることで、継続的により良い仕事を続けれられるようにしていきたいと思います。