先日流行語大賞が発表されました。今年の対象は「爆買い」と「トリプルスリー」でした。エントリーされたキーワードにもいくつか印象的なものがあり、その中に「五郎丸」がありました。五郎丸選手といえば、ある取材でのインタビューが記憶に残っています。
ジョン・カーワン前HCとのやりとりで、忘れられない一幕がある。ある日のミーティングでホワイトボードに「過去、今、未来」と書かれていた。「過去は変えられるか」と問われた五郎丸は「変えられません」と答えた。続いて「未来は変えられるか」と聞かれ、今度は「変えられます」と答えた。そこでカーワン前HCが言った。「違う。お前が変えないといけないのは、今だ。今を変えなければ、未来は変わらない」
我々はとかく未来を変えようと思いがちです。しかし今この時点が過去と同じならば、「これから先の未来は単なる過去の延長線上に過ぎない」ことになってしまいます。いかに今に注力しなければいけないかと再認識させられるやり取りです。
ノーベル賞を受賞した大村智名誉教授は若いころ、国体のスキー選手でした。その時指導を仰いでいた横山さんに言われた「鼻水をふくその手を持っていく力があるなら、なぜもう一歩早く前へ出ないか」という一言が頭に残り、その後の研究人生に大きく影響を与えたそうです。
このようにとにかく全力を出し切るという、過去よりも今この時に力を出すという変え方もあります。これは量的な変化と言えます。力を出し切るために、体力をつける、知力をつけることでより量的な変化が期待できます。一方、量という観点に対して内容や質という観点もあります。
今すべきこと(内容)は、短期的には効果が大きいが、長期的な利益には合致しないケースが良くあります。例えば、健康面を考えれば暴飲暴食を抑え、適度な運動がよいと誰もが分かっていますが、なかなか実践できずにいます。仕事面でも、より深い知識や特定技術の熟練が必要だと分かっていてもなかなか時間を割くことができずにいます。仕事でトラブルになりそうな状況でも周囲と連携できずに傷口を広げてしまったりします。やるべきことが間違っていてはいくら頑張っても報われないのは明らかです。まずは分かっていることから一つずつ見直して変えていくことが非常に重要だと思います。
内容が正しく全力を注いでいてもそれ以上の習熟度が飽和し向上が見込めないことが多々あります。人が学習するのにはまず学習すべきことを理解し、理解した通りに記憶し、そして実践して体に覚えこませます。最初は一つひとつ考え、確認しながらでなければできなかったことも、次第に無意識で行動できるようになります。車の運転では初心者はシートベルト、エンジンのかけ方、ギアの確認、シート、ミラーの調整、など多くのことを一つひとつ慎重に確認しながらやっと動かすことができます。しかし慣れてくれば何も意識せずにエンジンをかけ、出発のときに周囲の安全確認をするタイミングで初めて意識を介入するだけで済むようになります。車の運転に限らず、我々の行動は学習し自動化することで過度な負担を脳にかけることなく学習し実践できるようになります。しかしながら、一度自動化してしまうと自分のレベル(質)が当たり前になり、質の向上が難しくなります。車の運転でもハンドル、ブレーキ、アクセルの操作精度は人それぞれ異なり、他の人の運転に怖い思いをしたり、逆に感心したりします。日常生活、仕事などで当たり前にできていると思っていることを感度を上げて見直し、変えるべき点に気づき、より繊細な感度で試行錯誤を繰り返すことで、さらなる質の向上が図れます。
今当社を取り巻く環境は非常に激しく変化しています。一人ひとりの今を変えることがより良い未来につながります。