心理学で有名なマシュマロテストという実験があります。マシュマロテストは1960年代にスタンフォード大学のウォルター・ミシェル博士が行った、4歳の幼稚園児に対して厳しいジレンマを突きつける実験です。子供たちは報酬1つをすぐにもらうか、一人きりで待ってより多くの報酬をもらうかのどちらかを選ばせます。目の前にマシュマロとベルを置き、一人で部屋で待ちます。子供はマシュマロを食べたくなったらベルを鳴らし、研究員を呼びます。この場合は、一つしかもらえません。けれども、15分間後研究員が戻るまで待てればマシュマロを2つもらえます。このテストで最後まで待てた子は3分の1程度だったそうです。その後600人以上の被験者の追跡を行いました。青少年期では、誘惑に負けにくく、気が散りにくくより集中でき、より聡明で、自力本願で、自信に満ち、自分の判断に信頼を置いていました。また進学適性試験でも10%近く点が良かったという結果も出ました。成人期では先延ばしできた子は高い教育水準に達し、肥満水準が大幅に低く、対人関係の問題にも適応性があり、緊密な関係を保つのが上手だったそうです。同様の実験では幼児期の自制能力が乏しいと不健康、金銭上の問題、犯罪歴など成人後のネガティブな結果が予想出来るという結果が出ています。このように幼児期の自制能力は非常に重要です。自制能力は生まれながら身に付いたもので変えることが出来ないと思いがちです。
遺伝率という概念があります。遺伝率は一卵性双生児や二卵性双生児、兄弟などを比較することで、親からの遺伝子の影響を評価します。ABO式の血液型は全て遺伝なので「遺伝率」は100%となります。身長や体重等の体格は遺伝性が高く80%~90%ぐらいが遺伝に依存します。性格的や知能、言語能力は30%~50%が遺伝によるものだそうです。残りは家庭、社会の中で形づくられます。このように、生まれながら遺伝子として受け継いだ影響はありますが、全く変えられないわけではありません。
マシュマロテストでも上手く先延ばしできた子は、気をそらして、ストレスを和らげるために様々な工夫をしたそうです。ご褒美がむき出しだった場合は平均で1分も待てなかった場合でも、トレイで覆うと10倍近く待てるようになります。ご褒美がむき出しでも楽しいことを考えるように指示された時には10分以上待つことができ、ご褒美を目の前にした時にこれは食べられない写真だと思うと18分待てたそうです。
この実験ではもう1つ、今(目の前)と未来の評価の違いが重要な要素になります。「将来割引」という概念を経済学者が数式にまとめました。ハーバード大学のデイヴィッド・レイブソン教授は健康のためジムに通わなければいけないと思っている人がなかなか通えない理由を「将来割引」で説明しました。運動するのは苦痛、努力が必要となり6損失する一方で、運動の結果得られる健康などの将来の8の利益が得られます。将来の割引は半減しますので今運動する場合の評価は8/2-6=-2となります。一方明日運動する場合は、損失(運動の苦痛)も利益も将来として評価しますので8/2-6/2=1となり今日運動する(-2)よりも明日以降に先延ばし(+1)する方が魅力的に感じてしまうのです。
我々の身の回りには様々な誘惑が沢山あります。今も大事ですが自制を心掛け将来を見据えた判断、行動をしていきたいと思います。