2016年06月 危機感

2016年06月 危機感

 先日の伊勢志摩サミットで安倍首相は会議の中で「リーマン・ショック前に似ている」としてこのままなら、リーマン時のような不況に陥る可能性があると主張したそうです。その後消費増税の延期が発表されました。ドイツのメルケル首相は「新興国などでいくつかのリスクがある」としたものの、「経済は一定の堅実な成長をしている」との見方を示し、英国のキャメロン首相も先行きには楽観的な見通しを示したそうです。
 ドイツと言えば、2015年の1年間に移民が100万人流入し、今年の第1四半期の3カ月間だけで6万9000件の犯罪が発生したそうです。
 イギリスではEU離脱の国民投票が実施予定であり、EUを離脱すると95万人もの国民が職を失ってしまうとの試算があります。アメリカでは、クレジットカードの負債残高が100兆円を超え、調査会社は金融危機に陥る直前に似ていると指摘しています。新興国の中国でもリーマン・ショック以降、民間債務が増え続け、GDPの2倍を超えました。これは、バブル崩壊後の日本に迫る勢いとのことです。
 このように事実を並べると現時点で既に危機が迫っていると言ってもいいような状況です。しかしながら当然ですが、当事国は自分たちが危機に直面していると容易には明言は出来ません。いったん危機に陥ってしまえば危機感をあおっている余裕はなく、危機感を落ち着かせ、危機を乗り越えるために具体的な指示をしなければなりません。
 私も最近社内の会議の中で、我々を取り巻く環境について認識を共有したうえで、危機感を持って取り組むように働きかけをしています。しかし、サミットでの安倍首相が言及した危機に関する一連の報道を振り返ると、少し反省しなければならないと感じています。一言に危機感を持つと言っても立場によっては受け取り方が大きく異なります。大小の差はありますが危機は必ずやってきます。危機になる前に危機感を持って備えるという意図を込めて危機感を持つように働きかけをしていますが、現時点を危機だと認識してしまうと、委縮、思考停止、受け身、後ろ向きなど逆効果になるケースが多々あります。
 日本電産の永守社長がインタビューの中でシャープとか、東芝とか、結構、今苦しい状況になっている会社について尋ねられた際「業績が悪化している企業にやっぱり共通していることは危機感のなさ」と断じています。
 いざ危機に陥ってしまった場合には、その時点で選択可能な打ち手のみで対応するしかありません。準備ができていなければ、逃げる、ただ見守るだけ、などの対処療法に終始し、のど元過ぎればを繰り返します。危機に追いかけられ続けることになります。平時から大局的な観点で危機を意識することで、危機に対する備えが可能になります。
 「疾風に勁草を知る」ということわざがあります。準備が可能な時に危機感を持ち、大局的な視点で考え準備し、力を身に着けることで「危機に追いかけられる」のではなく、ドンと構え、危機を待ちかまえ、軽くいなし続けられる勁草の様になりたいと考えています。