東京五輪の開催が決定したとき、ある市場調査会社が、スマートフォンを使い2020東京五輪の注目競技(複数回答)を聞いたそうです。トップは水泳(58.8%)で、2位の体操(48.4%)、3位の陸上(45.1%)を大きく引き離し、メダルが期待できること、競技が面白いなどが背景にあるとのことでした。リオデジャネイロでの競泳では7つのメダルと15の入賞という大きな成果がありました。最近でこそ日本の競泳は表彰台の常連ですが1980年以降では1988年ソウルでの鈴木大地選手の金メダル、1992年バルセロナでの岩崎恭子選手の金メダルがあっただけです。
従来は質より量が重視された、いわゆるスポーツ根性論全盛の時代でした。1980年代、泳ぎのスピードとパワーを映像などで測定し、何が足りないのか、目標を設定して「質を重視する」手法に切り替わりました。中央大学で始まったとされ、90年代を経て、今日の科学的トレーニングの礎になったそうです。2000年以降。水中・地上カメラによる泳法分析の浸透、運動生理学、メンタル、コンディショニングなどの医科学的なサポートの拡大がありました。そして最も重要なのが北島選手の指導で有名な平井コーチに代表される科学的データを選手に上手に伝えるコーチ陣の台頭です。
これら競泳のコーチらは、自分で考えさせるコーチングは強圧的なコーチングより数倍も効果があるとの指導哲学を持っているそうです。平井コーチは「コーチングとは“選手の夢を現実にさせてあげるための作業”といったらいいでしょうか、選手に練習をさせる、頑張らせて速くする、というものでもないんです。」と言い、選手の自発的・自律的なプロセスを重視しています。
あくまでも科学的手法は、課題を明確にし、目標へどれだけ近づいているかの進捗を具体化するための道具にすぎません。平井コーチは選手の目標を達成するための「式」(手段・方法)が大切といいます。一人ひとり特徴があり、長所・短所を踏まえた「式」ができるそうです。この「式」をさらに具体的な「作業」に落とし込んではじめて意味のある練習につながります。北島選手は最終的には「コーチのいらない選手」、つまり自分で「式」を見つけて直すことができるようになったそうです。
科学的というと、やるべきカリキュラムやメニューが用意されているように誤解するかもしれません。実際には、多くの数値などを解析し、一人ひとりの特徴を明確化し課題を見つけ、解決手段を見出すための道具にすぎません。この道具を使いこなすことで初めて自分にとっての科学的手法を用いた成長が実現できます。
2020年にはこの東京でオリンピックが開催されます。我々もオリンピック選手に負けないように成長し4年後の祭典を楽しみたいと思います。