2017年03月 初心

2017年03月 初心

 新年度といえば4月からですが、春分で季節の切り替わりということもあり、我々が使っている暦も元々は3月ら始まっていましたので3月が初めの月というイメージがあります。「初」というと、入学式、入社式によく「初心忘するべからず」という言葉を引用されることがあります。これは能を大成した世阿弥の言葉です。我々はこれを「学び始めた頃の気持ちを忘れてはならない」という意味で理解しています。明治大学学長の土屋教授によると、世阿弥の言う「初心」は「最初の志」に限られているのではなく、人生の中にいくつもの初心があると言っているとのことです。若い時の初心、人生の時々の初心、そして老後の初心。それらを忘れてはならないということのようです。例えば若いときであれば24、5歳になって一人前になって周りが褒めたりする頃があります。その時に自分が天才なのだと思ってしまう。まさにこれが壁であり、ここに初心が来ると言っています。私も日ごろ様々な課題、プロジェクトを抱えています。一つの課題を解決した時にはやり切ったという達成感よりも、これでやっとスタートラインに立てるという気持ちになります。連なる連峰の一つを上ると次の山(課題)を初めて見ることができ、これまでと違う景色のもと次の山に向かうというようなイメージです。
 いま、ヤマト運輸が労使、顧客との単価やサービス内容の見直しなど様々な課題を抱えています。宅配業界では昨年度37億個を超えてこの20年間でネット通販の普及などにより3倍になったとのことです。最大手のヤマト運輸では16億個を取り扱っています。ヤマト運輸は1976年に当時の小倉社長のアイデアのもと、宅急便(登録商標)の名称で個人宅への集配をする宅配便のサービスを始めました、初年度は170万個の取り扱いでしたので40年で実に1000倍に拡大したということになります。ヤマト運輸はサービスもよく、融通が効いて柔軟に対応してもらえるという印象をもっています。しかし、2013年にはクール便の問題が発覚しました。この年にAmazonは佐川急便の値上げ交渉を打ち切り全量をヤマト運輸に切り替えました。現在のAmazonの荷物は推計によると4億個でヤマト運輸の25%を占めていることになり、これらが疲弊していた現場に一層追い打ちをかけていたのだと思います。ヤマト運輸でも荷物の追跡やWebでメンバー情報を登録したり、集配所でタブレットを使ったりとITの活用はすすめている様ですが、荷物の取り扱い自体は旧来通り、根本から変えるまでには至らず今回の問題につながったのだと思います。一方のAmazonはAmazon Robotics(AR)を採用した物流倉庫を昨年稼働しました。従来は人が歩いて商品を取り出していましたが、ARは商品の棚を「ドライブ」という自走式ロボットによって動かすことで人が移動することなく商品を取り出すことができます。ARでは移動距離の最適化も図りより効率が向上します。Amazonはこのほかにも米国内で自社便での運送を検討するなど、ITなどの技術を駆使して流通システム全体の再構築を実施しています。今回の一連の課題に対してヤマト運輸が顧客に対する単価アップなどや各種の条件交渉で場当たり的な対応にとどまるのであれば、今後拡大していく物流の流れについていけなくなってしまいます。ヤマト運輸は宅急便を始めた業界の改革者としてのDNAが残っているはずです、今このDNA(初心)を思い出し、使える技術を駆使し、Amazonとのより高度な事業の融合が叶えばきっと流通・運輸の改革が実現できるはずです。我々も節目節目で取り巻く環境を見直し常に初心を心がけることで継続的な成長が可能になると思います。