今年のACMチューリング賞受賞者はHTMLを開発したティム・バーナーズ=リーでした。チューリング賞はACM(Association for Computing Machinery)という計算機の国際学会がアラン・チューリングの業績を称えて1966年から実施しており今回が51回目となります。チューリング賞は非常に権威があり、計算機分野のノーベル賞といわれています。1912年生まれのアラン・チューリングはイギリスの数学者・科学者です。チューリングはチューリングマシンなどの計算機の基礎理論を構築し、チューリングテストという人工知能に関するテストも考案しました。このことから、計算機の父や人工知能の父と呼ばれています。第二次世界大戦では英国軍事情報部6課(MI6)に所属しドイツの難攻不落の暗号、エニグマの解読に従事しました。エニグマは換字式の暗号で電気機械式暗号機械のエニグマ暗号機で暗号化し、10^16通りの膨大な組み合わせがあり、ナチスドイツにとっての生命線でした。チューリングはbombeという暗号を解読する機械を開発し連合軍側の勝利に大きく貢献しました。情報通信の分野ではコンピュータをはじめインターネット、GPSなど軍事目的の開発の多くが民間で利用されるようになり我々の生活を便利にしています。軍事的な分野では命がかかるため多額の費用をかけて新しい技術の開発を行っています。一方の基礎科学の分野では多くの費用をかけることが困難です。
今回チューリング賞を獲得したティム・バーナーズ=リーは欧州原子核研究機構(CERN)に勤務していたときに数千人の研究者の情報共有を効率化させる目的でHTMLを開発しました。CERNは全周27kmの円形加速器で有名です。2011年にはヒッグス粒子に関係する実験を成功させました。CERNでのこれらの成果は基礎科学分野でも大きな成果が出せることを証明しています。
新たな進化、発見、発明を行うためには端や境界への挑戦が必要です。CERNの素粒子の研究の様な挑戦はヒッグス粒子の観測という成果を生み出しました。これらの研究を行う上での手段、つまり情報共有においても多くの研究者に効率よく情報を伝える手段としてHTMLが開発されました。目的としての境界に対する挑戦のみならず、手段においても境界へ挑戦することで新たな価値を生み出すことができます。
我々の仕事においても境界は現れます。業務を創るときには合理的な手段の組み合わせで設計します。しかし時とともに、技術、環境等が変化しこれら合理的手段の間に境界つまり非合理性や合理性のかい離が発生してきます。このような時に見過ごしたり、強引につなげたりするのでは退化にしかなりません。非合理性や合理性のかい離を認識した際に知恵を出し、新たな合理的な手段を考え実践することで、業務が時代の変化に合わせ進化し始めると思います。非合理性、合理性のかい離に出くわした時がチャンスですので、チャンスを生かしていくようにしていきたいと思います。