2017年12月 子宮頸がんワクチン

2017年12月 子宮頸がんワクチン

 去る11月30日に、科学誌『ネイチャー』などが主催するジョン・マドックス賞を医師・ジャーナリストの村中璃子さんが受賞しました。村中さんは子宮頸がん予防ワクチンの安全性を検証するなどの活動が評価されました。
 日本では、2013年4月に小学6年生から高校1年生の女子を対象に子宮頸がん予防ワクチンを公費で打てる定期接種となりました。しかし、注射後に痛みやけいれんなど多様な症状を訴える声が相次ぎ、同年6月に国は積極的に国民に勧めることを停止しました。報道でも大きく取り上げられ、これらの影響で2010年度の13~16歳のワクチン接種率はいずれも70%でしたが、2013年度の12歳、13歳においては接種率はそれぞれ1%と4%にとどまっています。
 子宮頸がんの日本での発症数は年間に約1万人で、約3,000人がこのがんによって命を落としています。発症のピークが30代後半であり、本人、家族共に大きな負担となります。2016年の交通事故死者が3904人であることを考慮しても、社会にとって大きな課題であると思います。厚生労働省は定期接種化される前から副作用に関する調査を行っており、500万回接種し副作用の報告が779人(0.02%)、重篤66人(0.001%)死亡1人(0.00002%)と発表しています。子宮頸がんの罹患率は83名に一人で約1%、ワクチンを接種すると罹患率を半減する効果が期待できます。厚生労働省によりますと、過去に接種した300万人に対しては13,000人~20,000人患者を減らし、3,600人~5,600人の死者を減らせたとの試算結果があります。重い副作用を患う方は非常に気の毒だと思います。ただし多くの罹患、死者を防ぐのか稀な副作用を皆で受け入れるのかは議論が必要な課題です。定期接種化に当たっては上記のデータを元に判断したのだと思いますが、方針転換する際に議論がどれだけあったのか非常に疑問を持ちました。トロッコ問題の様に行動せず多くの人を犠牲にするのか、多くの命を助ける代わりに自ら行動し少数の罪のない命を犠牲にするのか。非常に難しい問題です。
 その後厚生労働省の研究班が2016年に発表した調査結果ではワクチンの接種歴がない12~18歳の女性の場合、人口10万人当たり20.4人(0.02%)の頻度でも似たような症状が表れていることが分かりました。一方、接種歴のある女性では、同27.8人の頻度だったとのことです。
 2015年12月、世界保健機関(WHO)の諮問機関であるGACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)が子宮頸がんワクチンに関する新たな安全声明を発表し、その中で日本を名指しで「日本は子宮頸がんを予防する機会が奪われている」と批判しています。2016年4月18日、日本小児科学会など15団体は「体制は整った」と接種推奨を発表し、同年8月29日、日本産科婦人科学会は「予防接種は受けるべき」と発表しました。定期接種開始への専門家、行政の客観的判断は出来ています。あとは政治家、そして報道がどのように対応していくのかよく見ていかなければなりません。
 2013年の副作用の報道は非常に印象に残り、私も今回の報道を見るまで大きな副作用の問題が大きい印象を持っていました。副作用の症状があるのは事実ですが、ワクチン接種との因果関係、真理は明らかでありません。我々は理解しやすい事実に影響を受けやすいことを理解しておく必要があります。