サッカーのW杯で日本は2010年の南アフリカ大会に次いで3度目のベスト16という成績を残しました。大会の2か月前に監督が変わったこともあり、大会前は活躍を期待する声は少なかったと思います。
グループリーグでは世界ランキング6位のポーランドをはじめ、16位のコロンビア、27位のセネガルと対戦することになりましたが、日本は61位と非常に不利な立場でした。
初戦のコロンビア戦では開始3分足らずでコロンビアが退場者を出し11人対10人の数的優位になり2-1で勝利を収めました。得点を挙げた香川選手、大迫選手の活躍は当然ですが、原口選手は献身的な働きで評価されました。原口選手のスプリント回数は56回で、コロンビアの最多(39回)を上回っています。他にも乾選手が48回、長友選手が45回のスプリントを記録しました。トップスピードにおいても原口選手は32.18km/hを記録し、コロンビア最速31.50km/hを上回りました。走行距離では原口選手、長友選手、長谷部選手の3名が10kmを超えました。数的に劣るコロンビアは1人のみが10kmを超えただけでした。日本の勝利は献身的な選手の働きがあったからとの報道が多くありました。
第2戦のセネガル戦においても同様でした。セネガルはアフリカのチームということもありフィジカル面で優位に立ちそうですが、走行距離では長友選手の11.088kmをはじめ、柴崎選手、長谷部選手、酒井宏選手が両チームを通じて上位4位までを独占し、セネガルはサル選手か10.143kmの5位にとどまりました。スプリント回数も長友選手が53回を記録し両チームのトップでした。決勝トーナメントのベルギー戦では香川選手が12.047kmを走り両チームのトップを記録しました。これは今大会の日本の最長距離です。香川選手に対しても献身的な働きを評価する報道が多くありました。
このように今大会で日本は献身的に走り、ベスト16という結果を手に入れました。本田選手が会見で「日本の強味はなにか?」と問われ、「犠牲心」と答えたそうです。報道では献身性という表現がほとんどでしたが、選手の立場からすると「犠牲」なのかも知れません。代表選手は皆、所属チームを代表しています。W杯で得点に絡みたい、良いところで活躍したいと思っていて、いざという時や次の試合のために出来る限り体力を温存しておきたいはずです。自らの活躍の可能性と引き換えにチームの勝利のため、ゴールを決めた選手のために多くの選手が犠牲となった結果が数字として残りました。
ハリルホジッチ前監督が「コミュニケーション不足」「信頼関係の喪失」を理由に更迭されましたが、西野監督は監督就任の会見で「選手たちがもっと自分のプレー、パフォーマンスをまず素直に代表チームで…やはり自クラブでプレーしている以上のものが当然出るはずである代表チームだと思います。そういう選手がストレートにプレーできる状況を作っていきたいなと感じていきます。」と語っており、選手の能力を最大限発揮しようという決意と働きかけが今回の代表選手の活躍につながったのだと思います。
グループリーグの最終戦、ポーランドとの試合で西野監督は大きな犠牲を払いました。0-1で負けている試合の残り10分でいきなりパス回しをはじめました。この時点で日本はグループ3位となったセネガルとは勝ち点、得失点差が同点、フェアプレー・ポイントの差で2位となっていました。負けている試合を放棄する態度、セネガルが得点した時には3位に転落してしまうなど、監督としてその実績、評判を犠牲にするような覚悟を伴う指揮でした。グループの中で一番弱い日本が決勝トーナメントへ進める可能性を少しでも高める苦渋の選択肢だったのだと思います。日本は無事決勝トーナメントに進み西野監督の犠牲に応え、今大会で3位となったベルギーを2-0でリードし、最後の最後まで死力を尽くし戦い抜きました。
私たちも組織で仕事をしています。互いに献身的というレベルで補うのではなく、犠牲と感じるようなレベルで互いをフォローし、管理する立場においても自らが犠牲を払うことで初めて組織の力が発揮されるのだと、今回のW杯の日本代表選手の戦いをみて実感しました。