スウェーデンのカロリンスカ研究所は、今年のノーベル医学・生理学賞を、免疫システムを用いたがん免疫療法で画期的手法を開発した米国のジェームズ・アリソン博士と京都大学の本庶佑・特別教授に授与すると発表しました。
がん免疫療法は「外科治療(手術)」「放射線治療」「抗がん剤治療」の三大治療に続き新たな治療法として注目されていました。本庶特別教授の開発したオプジーボは2014年に認可されましたが、当時年間3000万円という高額な薬価が注目されました。11月にも薬価が引き下げられ当初一瓶(100mg)73万円の薬価が17万円になるそうです。
我々の体の中では健康な人でも1日に5000もの癌細胞が発生しています。通常は免疫細胞が癌細胞を攻撃し死滅させます。稀に免疫細胞の攻撃をすり抜けることがあり、この癌細胞が塊としての癌になります。がん免疫療法はこの免疫のメカニズムを活用する新たな方法です。「外科治療(手術)」「放射線治療」は物理的に癌を切除、攻撃しますがすべての癌細胞を取り除くのは物理的に難しく、「抗がん剤治療」も正常な細胞のダメージを考慮すると癌細胞を根絶するまで抗がん剤を投与することができません。これらの治療に比べるとがん免疫療法は癌に対する本来の治癒のメカニズムを活用するため劇的に効果があると言われています。感染症に対しては現在抗生物質での治療が主流です。第一次世界大戦の際には外科的な治療しか手段がありませんでした。地上戦では塹壕に身を隠し戦います。塹壕(地中)には多くの細菌が潜んでいて、兵士の傷口から細菌が入り込み破傷風などの感染症を引き起こします。ガス壊疽という感染症にかかってしまうと、患部を切除するしか方法がありませんでした。1935年にサルファ剤という化学療法薬が開発され、第二次世界大戦時には手足を失う人が激減したそうです。その後ペニシリンの発見で生物由来の抗生物質が開発され、感染症の脅威は激減しました。がん免疫療法はいわば感染症に対する抗生物質のような立ち位置になると思います。ただし現時点で残念ながら、承認されたがんのうち縮小効果を示すのは3割程度の患者とのことです。がん免疫療法は抗生物質のように生物本来のメカニズムを活用していますので、今後メカニズムを解明し、より効果が発揮する治療薬を開発することで日本人の1/3の死因となっている癌の脅威を無くしていくよう期待しています。
本庶特別教授は作新学院高等学校の講演後学生に「Curiosity(好奇心)を忘れず、Courage(勇気)を持って困難な問題にChallenge(挑戦)し、必ずできるというConfidence(確信)を持ち、全精力をConcentrate(集中)して、諦めずにContinuation(継続)させること」と言葉を送り6つのCが大切と伝えました。またご本人の座右の銘は「有志竟成(ゆうしきょうせい)」とのこと。「強い志を持てば目的は必ず達成できる」という意味で、中国の光武帝が述べたとされる「後漢書」に記された言葉を研究生活の支えにしていたそうです。PD-1というたんぱく質を1991年に発見し2014年の認可まで20年以上多くの批判にも負けることなく、有志竟成を体現されました。幼い頃に野口英世の伝記を読み、「医師として研究者として多くの人の役に立ちたい」と思ったことが強く影響しているそうです。志を持つ事は非常に大切だと痛感します。