11月19日に東京地検特捜部は金融商品取引法違反容疑の疑いで日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者を逮捕しました。カルロス・ゴーン容疑者は1999年当時経営危機に陥っていた日産自動車のCOO(最高執行責任者)へ就任し5工場の閉鎖、2万1000人もの従業員を減らしV字回復を実現しました。コストカッターの異名をもち徹底した合理化で知られています。
業務や組織を設立時にはその時点で最適な形で設計されるので、最も生産性、品質が高い状態でスタートします。ただし、お客様からの様々な要望に対応したり、世の中で前提とされる技術が変わったりしていくことで、無駄が増え、生産性、品質の相対的な劣化が進みます。そのまま放置していると1999年の日産のように痛みを伴う改革が必要となってしまいます。
合理化と言っても色々な観点があります。まずは削減。1999年当時の日産自動車のように、長く事業を続けていると従来は必要だった業務、組織が形骸化しコスト高の要因になっています。この場合、品質、生産性に悪影響が出ないよう十分注意し、当該業務や組織を削減することで合理化が実現できます。日産をはじめ経営危機に陥った企業がとる選択肢です。
前向きな合理化もあります。機械化、IT化など生産性、品質を劇的に向上させる新しい技術の導入で合理化が可能です。研究や開発、組織の再編など平時常に実施される合理化で、現在のように技術革新が常に行われている時代では、必須の合理化です。削減、革新以外にも、同じ仕事でも能力を高めることが可能です。
マラソンは1908年ロンドンオリンピックで42.195kmと定められました。この大会の優勝記録は2時間55分18秒です。先日、シカゴマラソンで大迫傑選手が樹立した日本記録2時間05分50秒には遠く及ばず、日本高校記録(2時間24分24秒)にも届きません。100年強の間に大幅な記録更新がなされ、ランナーの能力も大幅に向上していることが分かります。単にやみくもに訓練するのではなく、先人の記録を実現可能な目標に設定したり、先人のトレーニング方法を取り入れたり、科学的な解析を実施したりすることで能力向上が可能となります。
寿司職人の世界では「飯炊き3年、握り8年」で一人前になるには10年以上かかると言われているそうです。寿司学校「飲食人大学」では3か月で一人前に育成します。学校では、2日目から握りを始めます。先生が丁寧に説明しながらお手本を示し、到達点をビジュアルで見せてから即実行します。講師は「見て覚えろというのは効率が悪い進め方」と断じています。この学校を卒業するとすぐに「鮨千陽(ちはる)」で握るそうですが、このお店はミシュランガイドの一つ星を獲得しています。今でも見て覚えるような仕事や、教育カリキュラムが非実践的な仕事が多いと思います。技術を解析し、より良いカリキュラムを作ることで無駄な修行の時間を省くことが可能になります。
合理化は論理的、科学的(数値化、再現性)に検討、実施されるべきですが、なんとなく実施している手抜き合理化も多く見受けられます。顧客、上位役職者、営業などの業務に対する権威者が非合理的な納期、生産性、品質の要求をしたとき、当事者がその場しのぎ、すぐには問題が発しないような見せかけの合理化をしてしまうことがあります。当然あからさまな手抜きとは認識されませんし本人は手抜きとは自覚せず、合理化の一環と認識してしまい、周囲からのチェックも機能しにくくなります。潜在的に品質などの問題をはらんでしまいます。製造業で品質、検査などの問題が噴出している一因だと思います。
その場しのぎの合理化ではなく合理的裏付けが出来る実力を伴った合理化が大事だと考えています。