2019年02月 硬直化

2019年02月 硬直化

 厚生労働省の「毎月勤労統計」の不適切調査、野田市の少4少女虐待死、明石市長の暴言、最近の事件それぞれ違って見えますが、これらに潜む共通点について考えてみました。すべての事件に関して業務の硬直化が大きな要因となっていると思います。業務は当初創設者によって、仕事の目的や価値を満たすような形で設計されます。創設時にすべての要件を想定することは不可能で、一般的には実際に業務を進めながら想定外の事象に柔軟に対応していきます。この結果、業務の品質や生産性が向上し、業務そのものが成熟していきます。業務が成熟すると、想定外の事情がほぼ無くなってしまい、今の仕事が最適であると認識してしまいます。そして、何世代も担当を引き継がれて行くうちに創設時の考え方が忘れ去られてしまい、マニュアル化した形式的な表面的な理解しかできていません。いわゆる保守的、官僚的な状況と言えます。この状況が続くと本質的な目的よりも保身、所属する組織を優先する傾向が出てきます。このような状態になった時に想定外の問題が発生し、ストレスがかかってしまうと危険度が増します。想定外の課題が発生した場合には本来の目的に立ち戻り、時にはコストをかけてルールを見直す必要があります。しかし、業務が成熟してくると硬直化し手を加えるのが難しくなり、本来の目的も受け継がれず当面の問題に対する対処療法しかできなくなってしまいます。このような状態でも危機感があればまだ良いのですが、危機感が多少あったとしても人には正常性バイアスがあり、多少の危機が近づいても「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価するなどして結局大きな危機を招いてしまいます。当事者は表面的な経験とルールに従い良かれと考え、判断しているケースが多いので非常に対応が困難です。
 厚生労働省の統計では、予算を削られ少ない担当官で多くの業務をこなさなければならなくなりました。このようなストレスの下、本来なら手順を踏んで調査方法を変えるべきところでしたが、直接全数調査から安易に手間のかからない郵送で1/3抽出という形の変えてしまいました。そのうえ部分抽出を統計的に優位な形で反映しなければならないところを、間違えた形で統計数字を出してしまい、結果として大きな問題となってしまいました。
 野田市の小4少女虐待死においては、児童相談所が少女を保護し、虐待を認識していたのにも関わらず、2度目の保護の後父親のもとに少女を戻してしまい悲劇になりました。児童相談所は多くの事案を抱え常にストレスがかかった状態で、今回の父親のように狡猾な対応をされた際に正常な判断ができなかったのだと思います。明石市役所の立ち退き担当者は、最後に残った地権者に対してタフな交渉、時には組織的に交渉をしていく事を期待されています。しかし、歴代の担当者はこのようなストレスの大きい課題に対して、実効的な交渉をすること無しに時間だけが過ぎ、危険な交差点の工事が滞ってしまいました。この状況を何とかしようとする明石市市長の叱責が暴言問題となり市長辞任に繋がりました。最近続出している、歴史、実績のある企業の不正の多くはこのような原因があると思います。硬直化してしまった業務を根本から変えるためには創設時に設計したとき以上の知識、知恵、労力が必要になります。日頃から自分の仕事に求められている価値、良識などを常に意識し本質に立ち戻ることが重要だと考えています。