2020年05月 不確実性

2020年05月 不確実性

 新型コロナウイルスも新規感染者数も一けた台の日が多くなり、東京も緊急事態宣言の解除が確実になりました。東京が緊急事態宣言の解除の可否を判断するにあたっては、感染の状況、医療提供体制、監視体制の3つの目安が示されています。感染の状況に関しては「直近1週間の新たな感染者数が10万人あたり、0.5人程度以下」とされていて、数値で明確な目安を定めています。感染の拡大に関しても実効再生産数で拡大の傾向を評価するなど、今回の新型コロナに対処するために多くの数字が使われました。数字を使うことで複雑な状況をより正しく理解し、対処することが可能になります。
 我々つまりホモサピエンスは25万年前にアフリカで生まれました。この時は解剖学的現代人と呼ばれ、見た目、肉体的には我々とは変わらなかった様です。5万年前には認知・行動能力が急速に進化し、これ以降は行動学的現代人と呼びます。行動学的現代人は石器や骨などの道具や、壁画、立像など解剖学的現代人とは明らかに異なります。我々は5万年前から身体、認知機能は変わって無いとも言えます。今我々が文化で安全な社会で生活が出来るのは5万年前からの知の遺産のおかげと言えます。5万年前は狩猟採集の生活でしたが、その後農業革命、産業革命、情報革命などを経て現代の高度で複雑な社会を築いてきました。5万年前であれば社会は比較的単純で直感と周囲に対する認識は余り異なっていなかったと思います。しかし、いま我々を取り巻く環境は直感では正しく認識できないケースが非常に多くなっています。今回の新型コロナウイルスで言えば、先月紹介した確率や指数関数などが象徴的です。確率の有名な例として、モンテホール問題があります。これは、3つのドアのうち一つだけ当たりがあるとき、正解の確率は1/3になります。一つ選んだ後出題者は選択していないドアのうちハズレのドアを一つ開けます。その後選択を変えることが出来ますが、選択を変える時と変えないときでは確率は変わるのか?という問題です。元々すべてのドアが1/3の確率なのだから残りはそれぞれ1/3づつと思いがちですが、実際は残りのドアに変えたほうが確率が2倍高くなります。これは直感で考える答えと、実際の論理的な答えが違う典型的な例です。大学の数学者ですら間違え、なかなか納得が出来ないケースもあるようです。
 指数関数の例としては、落語家の曽呂利新左衛門の逸話が有名です。新左衛門は豊臣秀吉に仕えていました。あるとき秀吉から褒美を貰えることになりましたが、「今日は一粒、明日は倍の2粒、その翌日にはさらに倍の4粒と、日ごとに倍の量の米を100日下さい。」とお願いしました。暫くすると、膨大な量になると気づき他の褒美に変えてもらったという逸話です。10日だと1024粒20g、15日で32,768粒655g(茶碗約10杯)です。その急増し20日で100万粒21kg、30日で21トンになります。有名な逸話でチェスや将棋盤などを使うバリエーションもあります。
 我々を取り巻く環境は0か1という明確に判定できるものはなく、ほぼすべての事柄が確率的に発生します。単純な確率は直感的に分かりますが、実際は複数の条件が絡み合って直感では真の姿と乖離することが多くなってしまいます。また、ITの活用などにより多くの人、物が繋がってきていて複雑なネットワークのような環境になってきています。ネットワークで発生することは指数関数的な変動をします。小さな現象であれば、直感でも捉えることが可能ですが、指数関数は突然急増します。関わるものが指数関数的な挙動を示すかよく理解しておく必要があります。シカゴ大学のフランク・ナイト教授は、確率計算ができ保険が掛けられるような危険をリスクと呼び、予測できないような事態を不確実性と名付けて区別しました。コロナ禍はまさに不確実性に相当する予想を超えた災厄といえます。不確実性をより正しく理解するために数字は非常に有効です。数字でより正しく理解したうえで、経験と感性を伴った判断をしていきたいと思います。