人気リアリティ番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんが亡くなりました。木村さんは生前、SNS上で誹謗中傷を受けていました。この事件の後、誹謗中傷に関する相談が増えているそうです。ネットの誹謗中傷に詳しい藤吉修崇弁護士によると、自分の投稿が誹謗中傷にあたるかという内容が多いそうです。今回亡くなった木村さんの場合で言えば、番組の中の行動に対してのものは誹謗中傷にならないが、番組の行動は関係なく、容姿への誹謗中傷などになれば、アウトとなる可能性が高いそうです。法に触れなくても過度な批判、誹謗中傷は発言した当人の人格を貶めるので控えるべきだと思います。
脳科学者の中野信子さんによりますと『自分や自分の身近な人が直接不利益を受けたわけではなく、当事者と関係があるわけでもないのに、強い怒りや憎しみの感情が湧き、知りもしない相手に非常に攻撃的な言葉を浴びせ、完膚なきまでに叩きのめさずにはいられなくなってしまうというのは、「許せない」が暴走してしまっている状態です。われわれは誰しも、このような状態にいとも簡単に陥ってしまう性質を持っています。脳は、裏切り者や社会のルールから外れた人といった、わかりやすい攻撃対象を見つけ、罰することに快感を覚えるようにできています。他人に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出されます。この快楽にはまってしまうと簡単には抜け出せなくなってしまい、罰する対象を常に探し求め、決して人を許せないようになるのです。』とのことで、「正義中毒」という依存症だと呼んでいます。
正義感は社会を共通のルールで運営するために必要な感覚です。ただ「正義中毒」になってしまうと自分の快楽のために他人を傷つけることになります。このような意味でも過度な正義感やこの感情に基づく行動は適切かをよく考える必要があります。
誹謗中傷まで行かなくてもいわゆるメシウマ「他人の不幸は蜜の味」という発言もネット上に多く見かけます。京都大学医学部の高橋英彦准教授はfMRIを用いて「妬み」「他人の不幸」などの脳の働きを調べました。「妬み」の感情を抱くときには前頭帯状回の活動が高くなります。帯状回の上部が反応しているのですが、ここは体の痛みの処理に関係している部分です。つまり「妬みとは心の痛み」ということになります。
「他人の不幸」も同じように調べました。この時には線条体という部分が強く活動しているそうです。ここは「報酬系」と呼ばれるネットワークの重要な部位で、「お金」「おいしい食事」など「報酬」を得たときに反応し、ドーパミンを放出します。これが「他人の不幸は蜜の味」の仕組みです。前頭帯状回や線条体は大脳周辺系という哺乳類に共通の部位です。動物が野生での厳しい生存競争に生き残るための感情とも言えます。
我々の先祖は野生で生き残り、集団で力を合わせ、秩序を守るために本能を利用してきました。今は、多くの制度、ルールで社会が構成されているため本能に依存する必然性は少なくなっています。またITインフラが充実して便利になっている反面ちょっとした発言がすぐ拡散される危険性が非常に高くなっています。これらの本能や我々の環境を正しく知ることで自分や周りの人が不快になるような行動を控え、より良い人間関係が作れると思います。