2022年03月 ウクライナ侵攻

2022年03月 ウクライナ侵攻

 ロシアがウクライナに侵攻して一カ月が経ちました。国連では国の領土保全や政治的独立に対する武力行使を禁じています。「力による現状変更許さず」として3月2日の緊急特別会合でロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議を賛成多数で採択しました。193カ国中、賛成は141カ国。反対はベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5カ国、棄権は中国やインドなど35カ国でした。ロシアのプーチン大統領は昨年7月に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」と名付けた論文を発表しました。ロシア民族を大ロシア人(ロシア)、小ロシア人(ウクライナ)、白ロシア(ベラルーシ)人の3つの民族で構成されていると見なす三位一体のロシア民族というロシア帝国時代の考え方を持ち出し、ソ連の民族政策でこれら3民族が3つの国に固定化されてしまったことを過去の過ちとしています。ウクライナとロシアは同一の民族であり、ロシアとのパートナーシップによってのみウクライナの主権が確立できると述べています。
 ロシアは9世紀のキエフ大公国に遡ることができます。キエフ大公国はウラジーミル1世の時代に最盛期を迎え、ウラジーミル1世の死後、争いが勃発し一部の人々が当時の辺境地モスクワに移住し1272年モスクワ大公国成立に繋がります。
 プーチン大統領の正式な名前はウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチンです。名がウラジーミル、姓がプーチンです。ロシアでは名と性の間は父称といい父親の名前の末尾に~ビッチとつけます。つまりウラジーミル・プーチンの息子ウラジーミルと理解できます。親子揃ってキエフ大公国の最盛期のウラジーミル1世と同じ名前です。我々には理解できないような強い気持ちがあるのかもしれません。ウクライナのゼレンスキー大統領の名前はウォロディミル・ゼレンスキーといい、ウォロディミルはウラジミールのウクライナ語読みですので奇しくも同じ名前です。
 マーク・トウェインは「歴史は、くりかえさないが、韻を踏む」と言いました。全く同じことは繰り返さないが、似たようなパターンが繰り返し起こるという意味です。
 第一次世界大戦はオーストリア=ハンガリーのセルビア侵攻がきっかけでしたが、ドイツは予め用意してあった「シュリーフェン・プラン」という短期決戦の作戦を基に侵攻しました。しかし、想定外の状況が多々発生し、6週間でフランス軍を壊滅するという当初の計画は実現できませんでした。その後の4年にも及ぶ悲惨な世界大戦となりました。第一次世界大戦に前後してスペイン風邪の世界的大流行、1929年の世界大恐慌などがありました。今回ばかりは韻を踏まないことを願っています。
 プーチン大統領は歴史を根拠に今回の侵攻を正当化しています。歴史は過去に起きた事実ですので参考になります。立場によって全く異なる解釈となり、客観的な真理を示す根拠とするのは難しいと思います。欧米側は「力による現状変更許さず」としていますが、主要国がこれまでに固定化した「現状」には必ずしも満足していない国があることも事実です。アフリカには不自然な直線的な国境線が多くありますし、第一次世界大戦中に列強が決めたサイクス・ピコ条約はイスラエル・パレスチナの紛争、シリアの内戦など中東地域での紛争の原因になっています。ゼレンスキー大統領は国会の演説で国連が機能していない点を指摘しました。多くの国が協調し少しでもはやく「力によらない現状変更」が進んでいくことを願っています。