日本漢字能力検定協会が12月12日に清水寺で発表した今年の漢字は「戦」でした。「ウクライナ侵攻、北朝鮮の相次ぐミサイル発射などにより「戦」争を意識した年。円安・物価高・電力不足や感染症など、生活の中で起きている身近な「戦」い。サッカーW杯や北京冬季五輪での熱「戦」、野球界での記録への挑「戦」に関心が集まる、などが応募者が「戦」を選んだ理由だそうです。
直近ではサッカーW杯が強く印象に残っています。三笘選手の1mmが話題になりました。VAR(ビデオ・アシスタントレフェリー)の判定中、三笘選手のアシストを受けゴールを決めた田中選手が「アウト、アウト」と言っているのが映像で残っています。田中選手もその後のテレビ出演の際「『多分ラインを出ている』と思っていた」と語っていました。VAR判定の威力を実感するエピソードです。ビデオ判定は近年球技をはじめ多くのスポーツで取り入れられています。プロテニスでは2006年から、米大リーグでは2008年、日本のプロ野球は2010年から導入されています。サッカーは比較的最近で、国際サッカー評議会(IFAB)は2018年3月3日、年次総会でVAR制度の正式導入を決定し、前回のW杯からVARを全試合導入開始したそうです。新しい技術の導入で、従来よりも厳密な判定が可能になりました。
2020年にはじまったコロナパンデミックに対しても、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンという、ウィルスの一部(スパイク)のタンパク質を生成するmRNAを利用することで免疫を誘導します。従来のウイルスを増殖して生成する生ワクチン、不活化ワクチンなどに比べて高い感染予防効果があります。他にも感染性がない点、細胞成分等の混入がない点、生産が安価で比較的簡便であること、などのメリットがあります。まだコロナとの「戦」いが続いていますが、nRNAワクチンがなかったとしたら非常に恐ろしい状況になっていたと思います。
今年の漢字「戦」から最も連想するのはロシアのウクライナ侵攻だと思います。現在も戦いは続いていて多くの人が犠牲になっています。今回の戦争でもドローンをはじめとする新しい兵器が投入されています。ロシアが戦争を始めた理由、30万人を超える多くの予備役を投入したこと、武器の在庫不足で古い武器まで使い始めていることなど理解に苦しみます。戦いに関する考え方をまとめたものとして、紀元前5世紀頃に作られた「孫子」という兵法書が有名です。西洋でも19世紀ナポポレオン戦争にプロイセン軍の将校として従事したクラウゼヴィッツの著述した「戦争論」が有名です。双方とも経営者、スポーツ監督、投資家など戦略の原理原則を学ぶ古典として読まれています。中国古典研究家の守屋淳氏はこの2つを比較しています。「孫子」はやり直しが効かず、同じ相手とは一度限りの戦いを前提にしていますが、「戦争論」ではやり直しがある程度効き、同じ相手と何回も戦うという前提です。
孫子の兵法に「百戦百勝は善の善なるものにあらざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。」という言葉があります。これは「戦わないで勝つことこそが、最もよい作戦である」という教えです。古典には多くの叡智が凝縮されています。我々を取り巻く環境は日々変化しています、常に技術は進化しています。人そのものは昔からほとんど変わっていません。人の判断次第で結果は大きく違ってきます。叡智を適切に活用しながら乗り切っていきたいと思います。