LAドジャースの大谷選手の元通訳水原一平容疑者が訴追されました。違法賭博の借金を返済するため、大谷選手の口座から胴元側に1600万ドル(約24億5千万円)以上を不正に送金したそうです。大谷選手の信頼を利用した悪質な犯罪です。水原容疑者は自らをギャンブル依存症だと告白しています。一日あたり25回、一回あたり平均200万円、合計1万9千回の賭けを行い218億円勝ちましたが280億円負け、累積損失が62億円になったそうです。厚生労働省の「ギャンブル依存症の理解と相談支援の視点」によりますと、2016年のギャンブル依存症の患者数は2,929人ですが、潜在的な依存者は320万人もいるそうです。この資料の中で有害なギャンブル行為は・負けを取り戻すためギャンブルをする・ギャンブルを重要なものだと思う・借金、家職場のお金に手を出す・逃れるためにギャンブルをする・ギャンブルについて嘘を付く、秘密にする、などの要素があるとのことです。
京都大学の楠見孝教授は「無謀な賭け」に関する実験を行いました。無謀な賭けに関するこれまでの研究では、事前に多くの勝ちを経験するとその後の賭けが無謀になりやすいということが示されてきたそうです。ただし、このグループは感情が安定しており、回数を追うごとに無謀さは減少していきました。一方、多くの負けを経験したグループは暫くは無謀な賭けを避けますが、次第にネガティブな感情が増加し次第に無謀さが増大しています。これはギャンブル依存症の中核症状である損失を取り戻そうとする負け追いとの関連性を示唆するとしています。
先述の公表された数字から(想像で)概算してみます。水原容疑者は総額380億円(=200万円/回x19,000回)を賭けたことになります。海外のスポーツベッティングはブックメーカのマージンは5%くらいが多い様です。残りは参加者で山分けすると考えると期待値は95%と考えて良いと思います。この期待値で380億円賭けた場合、損失は19億円となります。水原容疑者は280億円負けたとのことなので、218億の勝ちに対する掛け金は100億(=380億-280億)となります。勝率は26%(=100億/380億)、平均して2.18倍(=218億/100億)となるような賭けをしていたことがわかります。損失が62億ですのでリスクを取った結果、平均的な期待値に対して3倍以上の損失が出ていたことがわかります。水原容疑者の期待値は57.4%ですので、宝くじの45.7%より少しマシという程度です。
2倍のオッズに対する賭けの戦略として、倍賭け法と呼ばれる「マーチンゲール」という手法があります。これは負けたら、負けた額の倍の額を賭け、更に負けると先程の賭け金の倍を賭ける、負けたら更に倍を勝つまで続け、勝ったときに最初の賭け金に戻して繰り返す、という手法です。配当が2倍以上のギャンブルでは資金が無限にあれば理論上勝てるそうですが、倍々と指数関数的に賭け金が増えていきます。早い段階で賭け金の上限に達するなどの理由で実用的ではないそうです。水原容疑者は平均すれば2.18倍のオッズですが、似たような手法で負け追いの状況に陥ってエスカレートしたのかも知れません。
我々の身の回りには合法なギャンブルがいくつかあります。先述の厚生労働省の資料では低リスクのギャンブル行為の特徴として・ギャンブルに使うお金や時間が限られる・勝ちを楽しむが、それが偶然だとわかっている・負けを受け入れる。負けを取り返そうとしない、などが示されています。ギャンブル依存症になった結果、水原容疑者はMLBのヒーローから信頼される立場を失ってしまいました。ギャンブルをする場合でも依存症になる可能性を排除することを意識して付き合う必要があると考えています。