8月11日に閉幕したパリオリンピックで多くのアスリートが活躍しました。TVやネット配信等で視聴し楽しむことが出来ました。スポーツはライブで視聴するのが一番盛り上がりますが、パリとの時差が8時間ありますので、現地の夜に実施される競技だと日本では早朝になってしまい競技によってはライブでの視聴は非常に困難でした。
世界各地の時間は協定世界時(UTC)を基準としています。UTCはイギリスのグリニッジ天文台を基準として経度15度で1時間の時差になります。日本標準時は兵庫県明石市子午線の東経135に制定されていて、イギリスに9時間足された時刻になります。国立研究開発法人情報通信研究機構で原子時計を用い日本標準時を生成していて、静止衛星を用いた時刻比較方式で数十億分の1秒から数百億分の1秒の精度で国際間の時刻比較を行うことが可能とのことです。
パリ大会の会場近くにはパリ天文台があり、グリニッジ天文台よりも4年早い1671年に建設されました。大航海時代には精度の高い地球規模の測量は必須で、当時のフランスは世界的に高い測量技術をもち、1671年にジャン・ピカールが現在知られている値と1%程度しか違わない正確さで地球の大きさを求めています。後にフランスの外交官タレーランが北極から赤道までの距離の1,000万分の1を1メートルと定めました。メートル(mètre)はフランス語で計器の意味です。
大航海時代の帰還率は20%程度と非常に低く、イギリスでは1707年に軍艦4隻が嵐の中座礁し1,400名を超える犠牲者を出しました。イギリス海軍は座礁原因として正確な経度測定が出来なかったためと結論付けました。緯度は北極星や太陽の高度から求めることが可能です。イギリス海軍の事故をきっかけに経度測定を推進する経度委員会が設立され、1714年に経度法を制定しています。経度法はイギリスからカリブ海の西インド諸島までの6週間の航海において、0.5度(55km)の誤差で経度を測定する方法を編み出した者に、20,000ポンドの賞金(現在価値で2億円)を与える法律です。経度は太陽が南中になるときの基準値との時間差から求めることが可能です。11時に南中した場合は基準地から東に15度ずれていることになります。経度法の精度を満たすためには一日あたり3秒以内の誤差に抑えなければなりません。当時最も精度の高い時計は振り子時計でしたが揺れの大きい船上では機能しないため、ねじ巻き式の高精度な時計の開発は必須でした。カメラのキタムラのHPで確認すると現在の一般的な機械式時計は日差-10秒~+20秒、ロレックスは日差±2秒となっており、非常に高い精度を求めていたことが分かります。時計職人のジョン・ハリソンは7年かけて1735年にぜんまい式の航海時計H1を開発しました。H1は経度法を満たすことは出来ませんでしたが、高精度だったため経度委員会から資金援助を受けることが出来ました。その後改良を重ね1760年にH4が完成し81日間の航海で51秒の誤差という高精度を達成し賞金を獲得することが出来ました。
当時は各国独自の子午線と各地方の標準時で運用していました。1868年のアメリカ鉄道ガイドではワシントンD.Cの正午に対してニューヨーク12:12、デトロイト11:36、セントルイス11:07、サクラメント9:02といった形で比較表に100以上もの地方時刻が掲載されるほどでした。1884年国際子午線会議が開催され、数百年の年月を経てイギリスが地図製作や航海技術で世界の頂点に立ちグリニッジ子午線が経度0度の基準に賛成多数で選出され、グリニッジ標準時が基準になりました。この際、フランスは投票を棄権し暫くの間、パリ標準時を使用していましたが、1911年にグリニッジ標準時を「パリ標準時刻を9分21秒遅らせた時刻」と定義し採用に至っています。
次のオリンピックの開催地ロサンゼルスはパリとは日本から16時間遅い時刻になります。日付を無視すれば8時間早い時刻となります。現地の朝8時が日本の深夜0時となり日本時間の深夜から朝にかけて競技が行われることになります。