社長 渡辺直企
明けましておめでとうございます。2024年はパリオリンピック、大谷翔平選手の活躍で盛り上がり、国内の選挙では、既存メディアの影響力が大きく変わりました。ウクライナ、ガザ地区などの紛争で国際情勢が不安定な中、トランプ元大統領が再び大統領選に勝利し、2025年はトランプ政権が復活しイアン・ブレマー氏が指摘している主導国のない世界、G0の世界になる恐れがあり激しい変化が予想されます。
このような変化の時代だからこそ、今年の指針は開かれた点を意味する「開点」としました。20年前の2005年Apple社の創業者スティーブ・ジョブスはスタンフォード大学卒業式の祝賀式で卒業生に向けてスピーチを行いました。スピーチの最初に「 connecting the dots(点をつなげる)」について話をしました。スティーブ・ジョブスは大学に進学したものの経済的理由のため中退せざるを得ない状況に追い込まれました。大学を去るまでの間は興味の赴くまま講義を受講していたそうです。その時に文字の幅や線の太さなどを変えて美しく見せるための手法であるカリグラフという芸術に魅惑されました。当時は将来役に立つとは思ってはいませんでした。10年後、Apple社最初のMacintosh (現在のMac)を設計しているときに、カリグラフの知識が蘇り、この知識を注ぎ込み、美しいフォントを持った最初のコンピューターを誕生させました。タイプライターが等幅文字だったので、当時のPCも等幅の単純なビットマップフォントを採用していました。等幅フォントはデータ量も少なく、単純なため描画も高速に処理できるというメリットがありました。従来機(Apple III)のOSやCPUを一新し開発することで、Macintoshには多様なフォントや字間調整機能が搭載され、非常に画期的なコンピューターになりました。
この経験を振り返り「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできない。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。」と語っています。
『イノベーションのジレンマ』で有名なクレイトン・クリステンセンも、イノベーションを「一見 、関係なさそうな事柄を結びつける思考」と言っており、点と点をつなげることがイノベーションとなります。日常の中で大きなイノベーションを起こす機会は多くありませんが、小さなイノベーションを積み重ねることで変化の大きな環境へ対応することが可能になります。皆それぞれ多くの点(知識・経験)を持っていますが小さなイノベーションでも容易ではありません。これは点がつなげられる状態になっていないからだと考えています。
物事を習得するときには初心者、半人前、一人前、熟練といった段階を経て成長します。初心者は未経験からのスタートなので学びからスタートし、実践ではまねぶ(真似ぶ)から始まります。そして、周囲のサポートを受けながら遂行できる半人前。日常的な要求・課題に対応できる一人前となります。更に困難な非日常の要求・課題にも対応できる熟練へと成長します。一人前までは開いていない点、閉じた点を他の点とつなげるのは容易ではありません。熟練となったときに「守破離」の如く、点(経験)が他の点とつながることができます。このような経験以外でも、知識の習得において開かれた点になるようなレベルまで理解する必要があります。そのためには知識を理解する、なんとなく使いこなせるというだけではなく本質的な理解まで追求する必要があります。
日常の仕事、学習において、とかくできたら満足、終わったら振り返らずということが多いと思います。日常繰り返している仕事でも標準化することで生産性・信頼性の向上が期待でき、想定外の対応も柔軟に可能になります。しかし、例外的な要素が積み重なり、放置したままでは標準化からは乖離し、硬直化しブラックボックスとなり、潜在的なリスクが積み上がってしまいます。日常の仕事においても常に開かれた点になるような意識が必要です。
一人ひとりが自分の目の前の仕事・経験・知識を開かれた点とすることで、点と点をつなぎ、より付加価値の高い組織・仕事の実現が可能となります。この数年でAIが大幅に進化し、イラストレーターや翻訳家など、失われる仕事も出始めました。変化の激しい環境に適合しリードできるようにしていきたいと思います。