2025年03月 桜の開花予想

2025年03月 桜の開花予想

 今年の3月には何度か雪が舞いましたが春の訪れが近づいています。この時期になると桜に関するニュースを目にすることが増えてきます。桜の開花予想方法を調べると「600度の法則」「400度の法則」というキーワードが多く出てきます。桜は秋に休眠状態に入ります。冬の間低温刺激を受けることで休眠から目覚めます。これを「休眠打破」と呼びます。この日(2月1日)を起算日として、最高気温の積算値が600度になったときが開花と予想するのが「600度の法則」、平均気温の積算値が400度になったときを開花予想とするのが「400度の法則」です。桜の開花予想は気象庁が昭和30年に開始し2010年まで行ってきましたが、現在は民間気象事業者が行うようになっています。
 気象庁では1995年までは気温や降水量などの気象要素やツボミの重さを用いた予想式から予想日を計算し、予報を加味し予想していました。予想式が地点ごとに異なり、最終的には人間の経験を加えているため、近い地点でも大きな差が出ることがあったようです。1996年からはDTS(温度変換日数)法を用いて予想しています。過去の実績から統計的な手法を用いて地点ごとに起算日とDTSの積算値の最適な所定量を決め、予想するモデルです。青森地方気象台によりますと青森では起算日は1月26日で所定量は22.9日、八戸では起算日は1月17日で所定量は24.8日となっていました。DTS法は桜の開花予想だけでなくみかんやりんごの開花の予想、そしてスギ花粉飛散開始の予想などの研究にも活用されています。
 気象庁が1996年に発表した「新しいサクラの開花予想」でDTSを用いた予想と従来の予想とを比較しています。新しい予想では気温予想に依存する割合が高いため、気温予想が実際に一致した場合には著しく精度が改善したとしています。DTS法を用いることで開花予想手法の標準化が可能になりました。「600度の法則」は経験則ですが、DTSは植物の生長速度の温度依存性が化学反応におけるアレニウスの式に従うという法則を用いています。そのためこの式でtは絶対温度(ケルビン)ですが「600度の法則」では日常使用する摂氏(℃)を用いるという違いもあります。
 「休眠打破」にはジベレリンという植物ホルモンが影響しています。ジベレリンを散布することで人為的に桜などの「休眠打破」を促し開花を調整することが可能になります。また開花前のぶどうの房をジベレリン液に浸すことで受粉することなく実をつけることができます。デラウェア、シャインマスカットなどはジベレリン処理を行うことで種無しブドウを生産しています。
 アレニウスの式は、ある温度での化学反応の速度を予測する式です。この式を用いることで様々な素材の反応(劣化)を予測することができます。保存食など保存期間の長い食品では「加速試験」を行います。日本災害食認証制度で製品固有の加速率を求める手順として紹介されている方法は、通常の温度よりも高い3つの温度(例:30℃、40℃、50℃など)でサンプルを保管し、各温度でサンプル保管期間中に5回以上(保管20日、40日、60日、80日、100日など)の保存検査を実施し、アレニウスの式を用いて製品の活性エネルギーを算出することで、短い試験期間で賞味期限を設定できます。食品以外の素材でも、JIS規格においてプラスチック、電気絶縁材料、ポリエチレン、ゴム、光ディスク、半導体レーザーなど多くの素材の耐久性、寿命の予測に使用されています。
 経験則はわかりやすく、使いやすいことが多いと思います。経験則だけではなくより本質的な知見まで理解することで、汎用的な知見とすることが可能となり、応用が可能になります。