2016年11月 アメリカ大統領選挙

2016年11月 アメリカ大統領選挙

 11月8日のアメリカ大統領選では事前の予想を覆して、共和党のドナルド・トランプ候補が第45代の大統領に当選しました。トランプ次期大統領は選挙戦では保守主義的で非常に過激な差別的言動を繰り返していました。今回の選挙結果は27年前のベルリンの壁崩壊によって生じたリベラル、民主主義の流れの終わりを告げる大きな出来事であるとの報道もありました。トランプ次期大統領は選挙期間中”Make America Great Again”(アメリカを再び偉大にしよう)をスローガンに「雇用機会を取り戻す」と訴えていました。しかし、現在の アメリカの失業率は2016年10月時点で4.9%と完全雇用の水準にあり、FRBも12月には利上げを予定していると報道されているとおり、経済的には(少なくとも数値的には)良い状況といえます。今回の選挙ではrust belt(錆の帯)と呼ばれる地域を中心としてトランプ次期大統領は票を集めました。rust beltではかつては工業が栄え多くの雇用を生んでいましたが、近年のグローバル化、ITなどの技術革新、移民などにより雇用が奪われてしまっているということです。このような人々の声が事前に聞こえなかった理由としてpolitical correctness(ポリティカル・コレクトネス)という差別・偏見を防ぐ目的の考え方があります。ポリティカル・コレクトネスにおいては公正、中立な考え方は重要で自由貿易によるグローバル化の進展や人道的な観点での移民受け入れなどが進んでいます。この一方で仕事を奪われた(と感じている)国民は大きな憤りを感じていてもなかなか声に出して言うことができない状況になっているようです。アメリカの国民の68%は「アメリカが抱える大きな問題は、ポリティカル・コレクトネスだ」という考えを「支持する」という調査結果もあります。また1970年の調査開始以来初めて2015年に中間層が半数を割り込んだというレポートもあります。イギリスのEU離脱などからわかるとおり、雇用に関する問題はアメリカだけでなくヨーロッパやアジアでも起きておりEU圏内では22%もの若者が失業中で、イタリアで40%、フランスで30%、ギリシャやスペインではなんと50%を超えているそうです。中国では大学を卒業予定している学生の52%しか就職先が見つからず、韓国では大卒の4割が就職できないなど、グローバル化、移民、技術革新によって廃れた産業に携わってきた人々や若者に大きなしわ寄せが及んでいます。政治的なきれいごとにはうんざりだと感じている人々が多数になってきた結果が今回の大統領選挙に現れたのだと思います。
 わが国では職種のミスマッチはあるものの、非常に低い失業率を記録しており当面の間は良好な雇用環境が続くとは思いますが、国を取り巻く環境は同じですので他の国と同じような状況に備えなければなりません。雇用難の報道のなかで「熟練労働者がますます選好されるようになっており、技術や教育水準が低ければ、就労できない公算が非常に高い」と言われており、我々も今の仕事の熟練度を深くし、一層のレベルアップを図っていきたいと考えています。