最年少棋士、藤井聡太四段がプロ棋士に転向後29連勝の新記録を達成しました。藤井四段は負けず嫌いで有名です。小学2年生の時に、谷川浩二九段とイベントで対戦したことがありました。谷川九段が優勢になり藤井少年が勝てなくなったときに、谷川九段は気を遣って「引き分けにしよう」といったところ、将棋盤に突っ伏して大泣きしたそうです。将棋のみならず、スポーツなど勝負の世界で成功するためには「負けず嫌い」は共通の特徴のようです。「負けず嫌い」に関する良い文献がなかなか見つけられず、インターネットで探していたところスポーツ心理学会での「負けず嫌いとスポーツ動機づけの理解に向けて」という論文に行き当たりました。この論文にもありますが「負けず嫌い」に関する研究は稀で、CiNiiという論文検索サイトで調べても現時点で55件と非常に少ないです。この論文では「負けず嫌い」の評価指標を(1)手段型競争心(競争で相手と互いを高められる)、(2)社会的承認(世に出て成功したいと強く思っている)、(3)過競争心(人より勝るためには手段を選ばない)、(4)競争回避(競争的な状況に不快感を感じる)に分類してスポーツ選手を対象に調査しています。競技レベル高群(全国大会への出場経験が5回以上ある選手:58名)と低群(全国大会への出場経験がない選手:200名)に分けて評価したところ、高群では(1)手段型競争心のみ高い相関がみられたそうです。勝負の結果や周りからの評価を求めるだけでは高いレベルに到達するのが難しいようです。また、質的に分析する際に、2つの軸を用いています。一つめは自分(内的)と相手(外的)、目先(認知)と目標(メタ認知)として評価しています。内的認知は「なんで出来ないだろう」、外的認知は「あの人に負けたくない」など視点が目先にあります。内的メタ認知は「もっと上手くなりたい」、外的メタ認知は「あのようになりたい」などと成長イメージをもつ中長期的な視点を持っています。熟達度が向上するにつれ負けず嫌いは認知的なものからメタ認知的なものに変わっていくとのことです。
サッカーの岡崎選手は日本代表のフォワードで歴代3位のゴール数を誇ります。ゴール前に誰よりも早く切り込んでいくイメージがあり、さぞかし足は速かったのだろうと思いがちですが、足が遅いことにコンプレックスを持っていたそうです。小学校6年生の頃、スポーツテストで50m走をしたとき、運動をしていない子と同じタイムでショックを受け、毎日サッカーをして走っているのにと悩みました。それからサッカーの練習の合間などに一人でダッシュを繰り返していたのですが、一向に早くはならなず、コンプレックスのため中学・高校の体育の時間ではわざとフライングしたり、ふざけたりとごまかしていたとのことです。岡崎選手は清水エスパルスに8番目のフォワードとして入団しました。そのとき、フィジカルトレーナに就任した元オリンピックのリレー選手の杉本龍勇さんに「足が速くなりたいんです」と言ったところ「なれるよ」と言ってくれたそうです。それから杉本トレーナの指導の下、姿勢、間接の使い方など基本的なことを一切手を抜かず取り組みました。ようやく体の動かし方がわかり始めた3年めに初めてゴールを決めることができました。岡崎選手は「正しいトレーニングを、地道にやり続けること」が大切だと言います。中・高校の岡崎選手は認知的で(4)競走回避してしまっていましたが、プロになり杉本トレーナと出会うことでメタ認知を持つことができ、困難だが着実に成果に結びつく努力を重ねて自分の走りを変えることができました。負けず嫌いはゲームやスポーツなどルールの決まっている限定的な場面ではよく目にします。小さな子供が、自分でやりたがったり、負けたとき悔しがったりすることから分かるとおり、本来は成長するために必要な欲求なのだと思います。ただし日常生活てあからさまに負けず嫌いを前面に出してしまうと人間関係に問題が出てしまうのも事実です。皆が持っている「負けず嫌い」の気持ちをいかにメタ認知として受け入れ成長へ繋げるかが非常に重要なのだと思います。