2020年07月 富岳

2020年07月 富岳

 理化学研究所と富士通が開発した最新のスーパーコンピュータ富岳は2020年6月23日、国際スーパーコンピュータ会議で発表されたTOP500において1位になりました。日本のスーパーコンピュータとしては、2011年6月・12月に京が1位となって以来9年ぶりです。近年スーパーコンピュータの性能競争が激しくなっていて、性能を追い求めすぎて汎用性が無くなってきていたそうです。富士通の新庄直樹理事によると「富岳は性能競争のためではなく、科学技術の探求だけでなく、産業界をはじめとして実用的に役立つ汎用性の高いスーパーコンピュータを目指して開発したものである」とのことです。この結果、「TOP500」のほか、実際のアプリでよく使われるCG法のプログラムで性能を評価する「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、低精度演算での演算能力を評価し、AI処理能力評価を行なう「HPL-AI」、超大規模グラフの探索能力で計算機を評価し、ビッグデータ分析などでの性能を示す「Graph500」の4部門において、いずれも2位に大差をつけて、世界1位を獲得できました。富岳が最初に取り組んだテーマは新型コロナ対策です。ウイルス治療薬候補同定などの医療的側面の研究で3テーマ、パンデミック現象および対策のシミュレーション解析などの社会的側面での研究の2テーマが富岳を優先的に使用して研究を進めています。
 以前大規模ストレージの性能解析、チューニングに携わったことがあります。競合他社が特定のベンチマークに特化した方式を採用し高い数値を出すことがありました。顧客や社外からこのような結果を指摘されると開発現場には営業やマネージャーから多くのプレッシャーがかかります。ただ、このようなベンチマーク対策は汎用的ではなく、実質的にはあまり意味をなさないことが多く、そのような説得をしてもなかなか納得してもらえないことが多かった記憶があります。特定の数値を向上させることは容易ですが、汎用性とベンチマーク性能の両立は大変難しいと痛感したことを思い出しました。
 富岳の頭脳(CPU:A64FX)にはArm社のコアが採用されました。ArmのCPUはRISCというシンプルなアーキテクチャを採用しているので、消費電力が少なくて済みます。これまで多くの組み込み機器などで使われてきました。IoT機器や運転支援などの車載システム、PhoneやAndroidのほとんどのスマートフォンに実装されています。Armを実装した機器は年間200億以上のArmデバイスが出荷されているとのことです。つい最近ではApple社のMacもintelからArmへの切り替えを発表するなど、幅広い分野で採用されています。
 富岳とは富士山の異名です。富士山のように高い性能(=標高)と汎用性(=広い裾野)を目指したため富岳と命名したそうです。富岳のように複数の面で両立させるのは容易ではありません。特定の数字や過去に振り回されず。いかにして役立つかを考え、その時点でベストなやり方で取り組むことが大事だと考えています。