2020年11月 mRNAワクチン

2020年11月 mRNAワクチン

 新型コロナウイルスの感染者が増加し第3波となっています。そんな中11月20日アメリカの製薬大手「ファイザー」は、開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて緊急の使用許可をFDA(食品医薬品局)に申請したと発表しました。アメリカで新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可が申請されたのは初めてで、審査が順調に進めばワクチンの接種が年内にも始まる可能性があるとのことです。他にもアメリカのモデルナ社が11月16日に、イギリスのアストラゼネカ社が11月23日にウイルスの有効性を発表するなど新型コロナウイルス対策に期待されています。
 2003年のAP通信の記事によりますと、「通常、新しいワクチンの開発期間が15〜20年なら、かなり短いと考えられる。したがって、SARS(重症急性呼吸器症候群)にとどめを刺すワクチンをわずか3年後に接種するという米連邦政府の計画は、実に驚異的なことに思われる。」とありますので、新型コロナウイルス感染拡大から1年弱でウイルスの実用化に近づいたことは大きな進歩だと思います。これらのワクチンはmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンといったこれまで研究が進められてきましたが、実用化されてこなかったワクチンです。東京医科歯科大学の位高教授の「mRNA医薬開発の世界的動向」(2019年)によりますと。mRNAは古くから研究されてきていて、1990年にはmRNAを動物に投与した実験がScienceに掲載されています。その後、2010年代に入ってからmRNAを生体内に投与する報告が増え始め、2019年時点では腎臓がんのフェーズⅢ(最終段階の検証的試験)の臨床治験が行われており、各種がんやHIV、インフルエンザなど感染症などの治験が進められていました。
 mRNAワクチンが体内に投与されるとmRNAワクチンの情報に基づきタンパク質が作られます。新型コロナウイルスに対してはウイルスの外側にあるスパイクと呼ばれる体内の細胞に吸着するためのウイルス固有のタンパク質の情報をmRNAに組み込みます。mRNAワクチンを投与すると体内でスパイクが生成され、このスパイクに対する抗体が出来ることでウイルスに対する免疫を持つことが出来ます。現在使われている生(弱毒性)ワクチンや不活化ワクチンはワクチンそのものを卵などで増やし、その後温度などの一定の条件下で弱毒化や不活化をしたものになります。mRNAワクチンが画期的なワクチンであることがよくわかります。位高教授の論文にある通りこれまで研究が進められていましたが、昨年時点の「mRNA医薬は新しい医薬品カテゴリーとして今後大いに発展が期待される」という状況から考えると劇的な変化と言えます。
 新型コロナウイルスの拡大が新しい技術の実用化の後押しをしています。ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンによれば、「人々は巷で流行する疾病で死ぬよりもワクチンの副作用で死ぬことを恐れる場合がある。統計的データよりも感情を揺さぶるような個々のケースに我々は強く反応しがち。」とのことです。新しい技術を受け入れることは容易ではありません。メカニズムや治験等を正しく理解し受け入れていきたいと考えています。mRNAを使えば任意のタンパク質を自在に生成することが出来るので、ウイルス以外にも多くの治療に役立ちます。mRNAワクチンの安全な実用化と新型コロナウイルスの1日も早い収束を期待しています。