8月24日京セラ・第二電電(現・KDDI)創業者の稲盛和夫さんが亡くなりました。(享年90歳)稲盛氏は著名企業を創業しただけではなく、自らの経営哲学、経営手法を広めるため、経営者向けの「盛和塾」という会を1983年に始めました。私も経営に携わりはじめた20年近く前、多くの勉強熱心な経営者が「盛和塾」に入会していて、何度かお誘いを受けたことがありますが縁無く入塾には至りませんでした。稲盛氏は多くの著書を出版していて、著書を通じ考え方を学びました。私が知った20年近く前は3,000人いた塾生も、2019年の閉塾時には14,938人(国内7,300人、海外7,638人)もの塾生を抱えるまで発展しました。延べ塾生が26,238人ですので多くの塾生が長い間在籍していたことがわかります。
中国では2010年代前半頃から稲盛氏のブームが起きていたそうです。稲盛氏の著作は中国で60冊近く翻訳出版されてい、累計で2,000万部の売上げを記録し、なかでも代表作とされる『活法』(日本語タイトルは『生き方人間として一番大切なこと』)は580万部を超える大ベストセラーとなっているそうです。2000年代までは戦略や戦術を説くアメリカの経営学が流行していたようです。しかし、2008年の金融危機で「利益のみを追求する」考え方が限界に達しました。稲盛氏は「私の人生哲学を書いた本が中国でベストセラーになっているのも、拝金主義の間違いに人々が気づき始めたからだと思います」と言っており、儒教や仏教などの東洋的な考えを取り入れた稲盛氏の哲学が浸透した理由を分析しています。
アリババを創業したジャック・マー氏を始めファーウェイを創業した任正非最高経営責任者(CEO)や、動画アプリ「TikTok」を大ヒットさせた北京字節跳動科技の創業者である張一鳴氏などが稲盛氏を信奉しています。張氏がトランプ前政権からTikTokをアメリカ企業に売却するよう迫られた際、社員向けのメッセージなどでたびたび「本質的な解決を図る」ことの重要性を訴えたそうです。中国の経営学者やメディアは、彼の発言に稲盛哲学の影響を見ているとのことでした。稲盛氏は立命館大学での講演でJALの再生について「私は、自らの経営哲学である『フィロソフィ(哲学)」をベースとして、社内の意識改革を進めました。」と言い、官僚的な体質を改善し意識改革に取り組んだそうです。「『フィロソフィ』とは、『人間として何が正しいのか』を自らに問い、正しいことを正しいままに貫いていく中から導き出した、実践哲学です。誰もが子どもの頃から教わってきた、正義、公正、公平、誠実、謙虚、努力、勇気、博愛などの言葉で言い表されるような、普遍的な倫理観にもとづいて、全てのことを判断し、行動していこうとする考え方です。」と説明し、JALの経営幹部に対して「皆さんが『こんな幼稚なことを』と軽蔑するような、まさにそのことを皆さんは知ってはいるかもしれないが、決して身につけていませんし、まして実行してもいません。そのことが、日本航空を破綻に陥れたのです」と断じ理解を深めていくことで意識改革をすすめた結果、「社員の意識が、利己的な考え方から『すべてはお客様のために』という、『利他』の方向に変わっていきました。」となり「JALの奇跡的な業績回復は、企業経営においても、『利他の心』が成功と繁栄を導いてくれるという証明になるのではないか、と私は考えています。」と結んでいます。稲盛氏は「利他の心で経営などできないのではないか。企業経営のベースは、あくまで利己的な欲望ではないのか」とよく聞かれるそうですが、「利己的な欲望だけで経営している者は、決してその成功を長続きさせることはできない」と考えているそうです。お客様、社会にとってどのような仕事が一番適切か、常に考え変化し続けていきたいと考えています。