2024年06月 富士山の眺望

2024年06月 富士山の眺望

 国立市で既に完成し、引き渡しまで一ヶ月となったマンションの取り壊しが決定したそうです。事業者のHPには「建物が実際の富士見通りからの富士山の眺望に与える影響を再認識し、<中略>富士見通りからの眺望を優先するという判断」という理由が掲載されていました。このマンションは2021年2月に11階36.09mのマンション建設計画を公表し、数度の説明会を経て10階30.95mと設計を変更した後、2022年11月国立市が承認し、2023年1月に着工しています。
 国土交通省・関東地方整備局は「関東の富士見百景」を2005年に選定しHPで公表しています。山梨県・長野県を含む関東圏1都8県で233地点が公表されています。東京は30地点あり、国立の富士見通りも選定されています。選定地の魅力として「大正時代末期の都市計画のなかで当初は大学通りに対して45度に延びる計画だったところを、広場を視点場として富士山に向かうこととしたため、今の角度になりました。」とあります。国立駅南側の旭通りは45度のままなので富士山に合わせたことで東の旭通りと非対称となっています。
 「関東の富士見百景」のなかで一番遠いのは茨城県の栄蔵室山頂(882m)で約244kmです。地球は球ですので富士山であっても見ることのできる距離は限られています。高さhの地点から水平線(高さ0)までの距離xは地球の半径をRとすると、R+hを接線とする大きな直角三角形とみなすことが出来ます。中学校で習った三平方の定理(ピタゴラスの定理)を使うと(R+h)2=x2+R2となります。R(6,371km)がhに対して非常に大きいとするとx=3570√ℎとなります。目線(h=1.6m)の場合は約4.5kmまで見渡せることになります。つまり理論上、富士山(h=3,776m)の場合は219km先の水平線まで見渡すことが出来ます。観測地点が高ければもう少し遠くまで見ることが可能です。富士山を見ることができる最も遠い地点は和歌山県那智勝浦町にある妙法山標高900mからの322.9kmです。2001年アマチュアカメラマンの仲賢さんが撮影に成功し、この地点を「色川富士見峠」と名付け「富士山日本最遠望の地」と書かれた看板が設置されているそうです。
 「関東の富士見百景」で東京は30地点登録されていましたが、現在7箇所で見ることが出来なくなっているようです。「日暮里富士見坂を守る会」のHPによりますと、荒川区の日暮里富士見坂は2013年に文京区に建設された11階建ての建物によって富士山を見ることができなくなってしまったそうです。2013年1月のダイヤモンド富士の際には坂を埋め尽くすほど多くの人が訪れています。
 国立のマンション解体の報道では「富士山が見えなくなる」以外に「日当たりが悪くなる」といった周辺住民の声もありました。日暮里富士見坂と比べると富士山の景観に対する運動の熱量が小さい様に感じますし、すぐ北側は第一種低層地域でもあるので、景観以外の要素の割合が多い気がします。
 国立市はかつて14階建て44mのマンションに対し20mを超える部分の撤去を求める訴訟があり、東京地裁では建築済みの通り側棟の20m以上の撤去を認める判決が出ました。その後の高裁、最高裁ではこの申立は却下されています。その後事業者は営業妨害として損害賠償を請求し国立市が賠償金を支払っています。この賠償金を国立市が当時の市長に請求するよう住民訴訟があり。元市長が支払うこととなりました。
 前出の富士見百景に認められた国立での広場は立ち入り禁止ですので、どこからの眺望権を主張するのかという点も疑問ですし、取り壊しの判断をするくらいなら最初から建設するという決断をする必要が有ったのか?など色々と釈然しない点が多いと感じました。
 関わった事業者や地域が今後どの様に変わっていくのかを見ながら考えていきたいと思います。